クラフトビールの商品ページを読んでいると、果物の名前に出会うことがあります。きたくらふとで販売しているお伊勢ちゃんの商品ページにも、実際に飲んだ感想として「柚子の香りに、バナナを思わせるフルーティさ」という一文を載せています。
ところが、お伊勢ちゃんの原材料表示は「麦芽、柚子、ホップ、コリアンダー」。バナナはどこにも入っていません。
この記事では、原材料にない果物らしさがどこから生まれるのかを、酵母の働きを中心に整理します。あわせて、商品説明の香りの表現を、原材料表示と見比べて読む手順を紹介します。
果物を思わせる表現の出どころは、ひとつではない
ビールの香りには、麦芽の香ばしさや燻製の香りなど、たくさんの出どころがあります。こぐまエールのビスケットのような香ばしさや、どろんの燻製の香りも、その例です。
そのうえで、きたくらふとの商品ページに果物を思わせる表現が出てくるときは、次の三つの例があります。
- 実際に果物やハーブを使っている(Gather&Giveは八朔や柚子、ハーブなど6種類の素材を使っています)
- ホップから果物のような香りを引き出している(らっこにひきは、3種類のホップでグレープフルーツやマンゴーを思わせる香りを出しています)
- 「酵母由来」の風味と説明している(お伊勢ちゃん)
1つ目はクラフトビールに米や果物を使うのはなぜ?で、2つ目はホップを使うとビールは苦くなる?香りと苦みを分けて見る選び方で紹介しました。今回は3つ目、酵母の話です。
酵母は、発酵で香りの成分もつくる
ビールづくりでは、酵母が麦汁の糖分からアルコールと炭酸ガスをつくります。これが発酵です。
オリオンビールのお客様相談室では、酵母を「糖を食べ、アルコールと炭酸ガス、エステルなどの香気成分をつくりだす微生物」と説明しています。つまり酵母は、アルコールと一緒に、香りの成分もつくっています。
パンづくりにもビールづくりにも、酵母の働きが使われています。ただし、食品や製法によって、使われる酵母は同じとは限りません。
同じくオリオンビールの説明によると、エステル香はビールの香りの代表格とされる香味成分で、発酵の際に生まれ、果実のようなフルーティーで芳醇な香りがするとされています。
果物を入れていないビールが、果実のように香ることがある。その理由のひとつが、このエステル香です。
酵母の種類によって、できる香りは変わる
オリオンビールの説明には、続きがあります。エステル香は「使用する酵母によって異なった香りとなります」。
酵母には種類があります。キリンビール大学のビール用語事典では、エールを「大麦麦芽を原料に、上面発酵酵母を使用し、20℃前後の常温で短期間に発酵させるスタイルのビール」、下面発酵を「下面発酵酵母を使用して、5〜10℃程度の低温で時間をかけてゆっくりおこなう発酵」と説明しています。
使う酵母が違えば、発酵で生まれる香りも変わります。ひみつビールの銘柄には「こぐまエール」をはじめ、エール系のスタイルが並びます。今回とりあげるお伊勢ちゃんの原材料表示にも、酵母は出てきません。酵母は、表示に現れないまま香りを支えている存在です。
お伊勢ちゃんでは「酵母由来のフルーティな風味」と説明している
お伊勢ちゃんは、柚子とコリアンダーを使ったホワイトビールです。
商品ページの紹介文には、「柚子とコリアンダーの爽やかな香りに、酵母由来のフルーティな風味」とあります。そして、きたくらふとが実際に飲んだ感想では、そのフルーティさを「バナナを思わせる」と表現しました。
ただし、これは飲んだときの印象を一番近い言葉にしたものです。バナナらしさがどの成分から来ているのかまで、分けて確かめたわけではありません。
それでも、この一本には読み比べの面白さがあります。
- 柚子の香り=原材料表示にある、実際に使った素材
- フルーティな風味=原材料表示にない、「酵母由来」と説明されている風味
きたくらふとで試飲した際の香りの評価は★1(おだやか)。強い香りという意味ではなく、柚子の香りとフルーティさを穏やかに感じた記録です。
香りの表現は、原材料表示と見比べて読む
店頭と違い、通販では注文の前に香りを確かめられません。そのぶん、商品ページの読み方が大切になります。果物の名前に出会ったら、次の3段階で読んでみてください。
- 原材料表示に、その果物があるか確認する
- なければ、商品説明に「ホップ由来」「酵母由来」といった説明があるか確認する
- 出どころの説明がなければ、推測せずに、香りのたとえとして読む
きたくらふとの銘柄で、実際に読んでみます。
パーシモン2の商品ページには、「柿の甘みがそっと寄り添う」とあります。原材料表示は、麦芽、柿、ホップ。柿が表示の中にあるので、実際に使った素材だと分かります。1番の例です。
らっこにひきには「グレープフルーツのような香り」とありますが、原材料表示にグレープフルーツはありません。らっこにひきは、3種類のホップを大量に使って、この香りを引き出しています。2番の、ホップ由来と分かる例です。
お伊勢ちゃんも2番です。フルーティな風味の出どころが「酵母由来」と書かれているので、原材料表示に出てこない風味まで読み取れます。
どちらの説明も見つからないときは、3番です。果物の名前は、原材料名ではなく、感じ方を伝えるたとえとして使われることがあります。書かれていない出どころを決めつけないことも、表示の正しい読み方のひとつです。
果物のように香っても、その果物の味とは限らない
もうひとつ、香りの表現を読むときのポイントがあります。香りと味は、別の欄で確かめることです。
たとえば、らっこにひきの評価は香りが★2、甘みが★3。マンゴーを思わせる甘い香りに、実際の甘みも重なります。一方で、果物のように香るのに、飲むと甘さは控えめという銘柄もあります。
反対の向きもあります。お伊勢ちゃんは香りが★1、甘みが★2。きたくらふとの試飲では、香りはおだやかでも、甘みはしっかり感じました。香りの強さと、味の強さも同じではありません。
果物の名前から甘い味を想像して選ぶと、印象がずれることがあります。香りの表現を読んだら、甘み・苦みの3段階評価もあわせて確認してみてください。香りと苦みの読み分けは、ホップの記事で詳しく紹介しています。
まとめ
商品説明に出てくる果物らしさの出どころは、ひとつではありません。実際に使った素材、ホップ、そして酵母由来の風味という例があります。酵母は発酵の中で、アルコールと一緒にエステルなどの香気成分をつくり、その香りは使う酵母によって変わります。
お伊勢ちゃんの商品ページには「酵母由来のフルーティな風味」という説明があります。原材料表示にある柚子と、表示には出てこない酵母の仕事。1本で読み比べられる例です。
次にクラフトビールの商品ページを開いたら、香りの表現をひとつ選んで、原材料表示と見比べてみてください。表示の中にその名前があるか、説明に出どころが書かれているか。それだけで、香りの読み方は変わりはじめます。
温度によって香りや甘みの感じ方が変わる話は、クラフトビールの保存方法と飲む温度で紹介しています。
※各銘柄の入荷数が少ないため、売り切れの際はご容赦ください。再入荷できない銘柄もあります。
※20歳未満の方への酒類販売はいたしません。
